我が子の成長は喜ばしい事なのだが、それを支える自身への負担が大きく、家事をしようにも持病である腰痛が悲鳴を上げるからだ。
「無事に生まれたらしっかり文句を言ってあげよう」
そう微笑みながら考えていると、自宅のチャイムが鳴った。
実家の母だ。腰痛を訴える我が子の様子を見に来てくれたのだ。
一通りの家事を済ませてくれた母が、そういえば、とA子に袋を差し出す。
以前膝を痛めた際整形外科でもらった貼り薬が余っているから、よかったら腰痛に使うように持ってきてくれたのだ。
早速腰から背中まで貼り薬を貼ってもらうA子。ついでに日ごろ痛む肩や首筋にもたっぷり貼ってもらった。明日からは旦那に貼ってもらうよう母に言われ頷く。
「また家事をお願いね」とおどけて母を見送りつつも、孫の顔を見せてたっぷりと感謝を伝えようと思うA子であった。
しかし悲劇は出産当日に起きた。
生みの痛みを経て誕生した我が子は、心機能が低下しておりチアノーゼを生じていた。
医師の言葉が早口になり怒号が飛び交う中、動揺を隠せないA子。
緊急措置が取られNICUへ運ばれる我が子の体には、至る所にチューブが付けられている。
後日医師からは貼付剤による胎児動脈管早期閉鎖が疑われるとの話があった。
「何が悪かったのか」「これから我が子はどうなってしまうのか」「誰のせいか」
産後で肉体的にもボロボロなA子を脳裏を不安と自責の念が渦巻くのであった・・・。
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以上フィクションではありますが、いかがでしたでしょうか。
今回のお話の中では問題点が二つあります。
一つ目は、先日鎮痛剤の貼付剤において、こういった妊娠後期の方への注意喚起が一斉に行われました。
実際に今回のお話のような症例が何件か挙げられており、因果関係が否定できない状況です。
たかが貼り薬、されど貼り薬です。
薬剤である限り少なからずともリスクを生ずることを念頭に置く必要があります。
二つ目は処方薬剤の譲渡です。
今回のケースで、もし産婦人科の医師から処方を受けた貼付剤を使用していたのであれば、これは医薬品副作用救済制度に基づきある程度の補償が行われます。
しかし悪気はなくとも、その人の為に処方・調剤された薬剤を他の人が使った場合に生じた副作用は誰も責任を負ってはくれません。
以前新聞にも記事がありましたが、子供の兄弟間で似たような症状を生じた際に、親の自己判断で余っていた兄弟の薬を使った経験がある、と答えた方が65%にものぼるそうです。
また、高齢者の旅行などで胃薬や便秘薬などを譲受するケースもよく耳にします。
「自分の体の事は自分が一番わかっている」かもしれませんが、不測の事態への補償は何もありません。自己判断=自己責任となります。
今回のフィクションのような不幸な薬による事故を防ぐためにも、
医薬品の適正使用推進やくすり教育などによる、正しい情報の提供が薬剤師に求められていると思われます。
(大輪 武司)
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